・酒の想い出 僕は初めてお酒を飲んだ日のことはまったく覚えていない。 物心がつくと、父にビールや日本酒をなめさせてもらっていた。 その頃は、「飲む」ではなくて、「なめる」だったので顔がぽうっとほてることはあっても別に酔っ払うわけではなかったと思う。 中学を卒業する前後には、友達の家に集まって飲み会をやっていた。 高校では、夏休みの夕方、部活の後、酒とマージャンだった。 この頃に飲むのはだいたいビールだった。部活で大汗をかいた後のビールだから結構な量を飲んでもあまり酔いつぶれたりはしなかった。フィズとかいう合成の果実酒のようなリキュールのようなものも飲んだことがあるが、こちらは何だか悪酔いしそうな、体に悪そうな感じがして、2度か3度飲んだだけだ。 ただし、酒については、高校3年生の夏前に、大学に通るまで酒は飲まないと一大決心をした。実際に、大学に通るまでは、「薬代わりの」梅酒を口にする以外には酒を飲まなかった。 ・焼酎の思い出 大学生に入ってからは、わりと飲みに行く機会も多く、いろいろ酒を飲んだ。特に好きだったのはウィスキーで、シングルモルトのウィスキーを片手に夜を本を読みながら何となくすごすのが好きだった。 そんな僕がはじめて飲んだ芋焼酎は、大学院のとき、友人の家でだった。 2次会の後、彼の家に二人で行き、彼が風呂屋に行ったので僕は留守番をした。その間に僕は彼がくれた一升瓶左手に持って床に座り、右手にグラスを持って生(ストレート)で独りで飲った。 そのときは、度数を見て、25度というのが目に入ったので、「日本酒よりもきついけど、割って飲むものではないんだろう」と思い、水やお湯で割ることなどまったく頭に無かった。 「芋の汁」という感じの味で、さつまいもの香りがすごく強いのが印象深い酒だった。僕は「芋焼酎ってうまいんやなあ」と少し感動し、ぐびぐび飲んでいたら、いつの間にかつぶれてしまった。彼が帰ってきた頃には半分眠っていて、「これうまいなー」とかなんとか言ったのは覚えているが、二人で語り明かすようなことはなかった。はじめての芋焼酎の経験を簡単に言うと、「友達の家に行って、独りで酒を飲み、寝た」ということだ。 なぜかあのときの焼酎には未だにめぐり合っていない。今でも彼とは友達なので聞けば良いのだろうが、なんとなく聞きそびれている。 とにかく、彼のところで飲んだ焼酎は僕にとって、芋焼酎を好きにさせてくれた大きなきっかけになった。 その後、大学院の先生と一緒に行っている飲み屋で出されている焼酎が芋焼酎であることを知ったが、ここでの飲み方は焼酎を5倍くらいにお湯で薄めて飲むという飲み方のせいもあり、ほとんど癖がなくない。こういうカジュアルな飲み方もあるということを知った。が、癖がない酒を飲むぐらいなら水かジュースを飲んだ方が良いのではないかという気もする。酒は味や癖があるからこそうまいし、飲む意味もある。 ・鹿児島で飲んだ焼酎 鹿児島で飲んだ焼酎で印象深いのは、鹿児島に引越しをする準備に来た日のことだ。 僕は一人で鹿児島に来て、翌日の荷物の搬入に備えていた。当然ながら部屋には電気すらないので、仕方なく天文館までバスで行き、電灯とつまみを買って家に帰った。 このときの家の向かいには酒屋があったので、焼酎はここで買うことにした。 しかし、考えてみると部屋にあるのは寝袋と電灯だけ。 つまみは手で食うとしても、酒をラッパ飲みするわけにもいかない。 「黒伊佐錦」一升を買って、酒屋のおばちゃんに事情を話すと、グラスをおまけしてくれたのに甘えて、ビールケースを貸してくれた。 ビールケースを裏返して、上にダンボールを載せると、ちょうどいい感じのちゃぶ台ができると思ったからだ。 6畳の板間にあぐらをかいて、即席ちゃぶ台で焼酎とつまみを食う。 この風景はなんとなく僕は新しい生活の出発にふさわしい気がしてとても気に入っている。 ちなみにつまみはさつま揚げと、地鶏の刺身だった。 3月なのに夜でも窓を閉めれば半そでで暮らせてしまうぐらいの暖かさの中で飲む焼酎は、「鹿児島はやっぱり芋焼酎やなー」と、しみじみと感じてしまう。 (こういう風に焼酎を飲みながら同僚とかと教育や研究について語ったり、学生といろんなことを語るっていうのはいいものかもしれないな) そんなことを思いながら僕はつまみをつまみながら焼酎を飲んだ。 鹿児島で食べると、なんと言うことのないさつま揚げと焼酎の組み合わせが、その気候とあいまってこれ以上ない組み合わせに思えた。この感覚は今でも変わっていない。 やはり、鹿児島の酒と食べ物は鹿児島で食うからこそうまい。 他のところで鹿児島の酒と食べ物が気に入った人は、ぜひ鹿児島の気候でそれらを体験してみるべきだ。 ・焼酎蔵の話 焼酎蔵を見に行くのもとても楽しい。ただ、不思議なことにこれまで日本酒の蔵元には行ったことがない。日本酒だと、ものすごく気難しそうな職人さんが出てきて怒鳴られそうなイメージがある。焼酎の場合には、鹿児島の道をドライブしていると道端に「焼酎蔵、見学歓迎」というような標識がでていて、向こうの方から歓迎してくれる。 今までにいくつか焼酎蔵を見学したが、いずれもハイテク技術を用いて造る酒以外に、伝統的な技術で作る酒も造っていることが多い。ハイテクで造る酒造りと伝統技術による酒造りのどちらが面白いかは一概には言えないが、味はやはり伝統技術に勝るものはないと思う。その分、値段も高いのだが、1升1400円の酒が1800円になる程度で伝統技術の酒を入手することができる。このぐらいの差は、味の差を考えればむしろ安い。特にこれで伝統技術育成の「パトロン」になれていると思えば、気分も良くなるというものだ。 焼酎蔵は、鹿児島にはまだかなりの数があるらしく、味も様々である。 その中でも、丁寧に作っている蔵の酒が「たまたま」注目されてブームになる。 5年前だと、森伊蔵、伊佐美、魔王あたりが3羽ガラスだったのが、いつしか村尾とか佐藤が加わり、今は焼酎全体がかなりのブームになっている。 しかし、都会の人に好かれるのはすっきりした辛口の味わいであり、芳醇な芋のエキスそのもののようなものよりは、飲むと、「くぅーっ」とか言ってしまいそうな、スピリッツに近いもののようだ。僕はどちらかといえば、もう少し甘いというか、やさしい味のもののほうが好きだ。うわさではアルコールを添加して辛口感を出していた銘柄もあるそうで、有名になるのも良し悪しだ。 日本酒は、醸造用アルコールのせいですっかりだめになっていたのが、少し最近は復活の兆しも見えるが、今まで低い位置におかれていた芋焼酎にとっての正念場はこれからだろう。 何を作っても売れるからといって、本物ではないものを売ってしまえば、気づいたときにはもはや後戻りできなくなってしまう。売れなくても、きちんとしたものを作り続けてきた気持ちを忘れてしまえば、結局は長続きしない。焼酎産業を長続きさせるためには、結局は、焼酎文化を日本に根付かせるしかない。そのためには、技術革新も重要だが、新しい技術が製品の品質を下げてしまわないかどうかは十分に注意しなければいけない。 焼酎に関してはもっと書きたいことがたくさんあるけれども、この辺りで一回中断しておいて、「焼酎(1)」とし、「焼酎(2)」へとつなげることにしよう。