地域活性化に観光は有効なのか

ふと思い立って、ロバータ・B・グラッツの「都市再生」を読み返していたら、中心市街地活性化のための観光振興について言及されていた。 この本は、アメリカの都市部の再生に関するルポで、参考になることが多い。 なんだか、熊本市がいまだに活性化のための区画整理をやろうとしているのを見ると、市長にこの本を贈りたくなる。 中心市街地を再生させるためには、既存住民が住み続けることに加えて、新規住民を呼び込む工夫が大切だと著者は言っている気がする。そしてそのためにも、コミュニティや街の造りは重要な意味を持つ。 これらを壊してしまう形態での区画整理は、もともとの良さは当然失われるし、できた街は多くの場合、日本中どこにでもある街になる。 (そうならないばあい、目新しいだけの暮らしにくい街になる危険も高い) 都市の問題を考える人は、一度は読んでみてほしい。 さて、観光の件だが、著者はドナルド・アップルヤード教授のこんな言葉を引用している。 「観察者は被観察物に影響を与える、という古典的現象のよい例であるが、観光客は自分の要求によって、訪れた土地の生活を微妙に、あるいは劇的に変えていくのである」(p. 35) つまりは、地域を観光振興することで、地域が別のものにかわってしまうリスクがかなりあるということだ。 そして、「あまりに多くの自治体が、地元住民や地元企業のお金を使って、訪問者用の施設をつくっている。ダウンタウンの住民こそが、都市がこの何十年かの間に失ってきた、もっとも価値ある資産である。」(p. 34)と指摘している。 僕のこれまでの調査経験でも、ほんとうにこの土地で観光業を振興していいのか?と思ってしまうことが何度かあった。 それは、地元経済と観光業がほとんど関連を持たず、観光客の落とすお金が地域に落ちない場合だ。そして、地域の人々の街や生活は、観光客の見せ物になる。 そういった覚悟が地元の人にあるのか?ということを観光振興の前に、まず問わないといけない気がする。