28年目の「帰郷」

こどもの頃住んでいた場所を28年ぶりに訪問した。 三重県名張市桔梗が丘という駅から歩いて15分ぐらいのニュータウンだ。 まず、バスを降りた場所が、いったいどこかよく分からない。 とりあえず、坂を上ったところのはず、と思ってちょっと歩くと、見覚えのある名前の表札を見つけた。 当時すごく仲良かった友人の名前だ。 庭仕事をしていたおじさんと目が合ったので、ちょっと会釈をするものの、自己紹介はやめておいた。 たぶん友人の父親だと思うのだが、当時も会った覚えがない。 大阪のベッドタウンのせいもあるだろうが、当時、友人の父親に会ったという記憶はほとんどない。 みんな忙しく働いていたんだろうな。 さて、僕の家はもう少し歩いて、バスどおりから二本内側に入ったところ。 角の幼なじみの家は改築されて、すごくきれいになっていた。 向かいの平屋の倉庫のような空き家のような不思議な家も以前のまま。 で、僕の家は?と思ってみると、ちゃんと立っていた。 以前のままで、立っている。 築30年以上で壁が色あせていたけど、ちゃんと僕の住んでいた家だ。 今は別の人が住んでいるので、写真をこっそり撮って、すぐにその場を後にした。 街は思ったよりも変わっていて、なんだか曲がり角がよく分からなくなっていた。 少し歩いていると、その理由が分かった。 街がよく分からなくなっている理由は、街路樹や庭木のせいだった。 30年の間にどの木も巨大になっていた。 こうやって歩いてみると、当時からすごく木をたくさん植えたようで、街中緑に埋まっているような感じ。 ちょっとずつ記憶も戻ってきて、親友達の家を訪問してみる。 先ほど訪れたF君の家、T君の家、M君の家は改築されてすっかりきれいになっている。 今は歌手になったH君の家は古いままで、昔の面影どおりだった。 28年の時を経て、街を歩くと、こんなに狭い街で僕は暮らしていたんだなって思う。 幼稚園の頃は、友達の家に一人で行くことがすごいことだと思っていたけれど、歩いてほんの数分、わずか2ブロックだった。 幼稚園まではバスで通っていたけれど、大人の足だと20分もかからない。 小学校まではもっと近くて10分かからない。 なんだかガリバーになったような気分。 実は、小学校3年の終わりに転校して、一度も手紙を送っていない。 何度も手紙は書いたけれど、なんだかふさわしくない気がして結局送るのをやめた。 故郷を離れた心の傷が深かったのかも知れない。 再訪して気づいたけど、桔梗が丘は僕の故郷だった。 なんとなく、自分は何度も引っ越したから故郷がないんだと思っていたけど、ちゃんと故郷があった。 わずか1時間の滞在だったけど、昔のことを思い出せたいい一日だった。