ゴミにまみれて

ごみの研究をはじめて10年になるけど、今までなんにも知らなかったんかもなあとつぶやいてしまった。 坂本信一『ゴミにまみれて(清掃作業員青春苦悩篇)』(ちくま文庫、2000年)は、最初、1995年に径書房から発行された。 大学を出て映画の道を志した青年が両親の住む町で清掃作業員になってからを綴っている。 この本、とあるミニコミ紙の連載で、リアルタイムで話が進んでいく。 清掃作業の実情や、そこで坂本氏が考えたこと、民間委託を巡る問題に揺れる職場の状況などがリアルに描かれている。 この筆力はシナリオを書こうとしていたためか。 ひと月ほど前に読んだときにはもう、 (こんな現実に触れずに政策や経済学を語ることはそもそも罪だし、意味がない。) そう思い、今まで無知のまま研究をしてきたことが恥ずかしくなり、研究をやめようとも思った。 僕が受けたショックは、そのとき取ったメモを見れば分かる。 全32話のうち、メモが取られているのは後半の16話以降だけ。 それまでは、主に清掃作業の実情が描かれているのだが、どこをどうメモしていいかも分からず、ただ読みふけってしまった。 僕ら研究者は、本当の現実からは目をそらしてしまいがちだ。 分かりやすいこと、分析しやすいことに目を向ける。 「それに、今日のことでした。私の仕事を理解し、ゴミ問題に関心を持つ市内の友人が、自転車に乗ってやってくるのに出会いました。作業をしながらも気がついたので、「やあ!」と軽く手を上げました。一瞬ハッと気づいたかに見えた友人は、すぐにさも気づかなかったようにとりつくろい、スーッと自転車を走らせて行ってしまったのです。見てはいけないものを見てしまったとでも思ったのでしょうか。(p.18)」 ちょうどこんな感じか。 深く、研究態度を反省させられた一冊だ。 今は絶版で入手できないのが本当に惜しい。