マックジョブと多様性

JapanKnowledge「亀井肇の新語探検」より McJobなる言葉がWebstar辞書に採用された。 「技量を必要としない低賃金の仕事で、昇進の機会はまずない」だという。 これに対してマクドナルドの社長が、全従業員の顔をひっぱたくような行為だと公開書簡で抗議したという。 Webstar側は、「様々な出版物の中にこうした使用例が頻繁に認められる」として、この講義に応じる構えを見せない。 どちらの主張が正しいかはおいておいて、仕事のマニュアル化というのは経営者にとっては非常に魅力的な誘惑だろう。多店舗展開を行なううえで、スタッフの質は店の成功を左右する。 そのときに、優秀なマニュアルがあってスタッフを教育することができれば・・・ しかし、マニュアルには、スタッフが備えておくべき最低限の知識であるのか、マニュアル通りに守っていれば良いという行動規範なのか、あるいはこれ以上のことはしてはいけないという裁量の範囲を示すものなのか、という3つの位置づけを与えることができる。 このどれをイメージしてマニュアルを作るのかによって、会社のイメージは大きく変わる。 McJobが暗示しているマニュアルは当然行動規範のマニュアルで、それ以上の行動もそれ以下の行動もスタッフには期待されていない。 まったく同質の店員であればそれ以上もそれ以下も臨まれないわけである。 マニュアルが画一的な基準を示すものとして使用される場合、その仕事は容易にロボットと代替されうる。むしろ優秀なロボットであればロボットの方が望ましい場合も多い。 マニュアルのもとで人間がロボットに負けないためには、自らの個性を消してマニュアル人間に徹しなければならない。 もちろん、このような店は顧客側にとってはあまり魅力のあるものではない。 スタッフが一定水準の能力を備えているのは当然としても、それ以上の能力を持っている人がいない限り「また行きたい」とは積極的に思わない。 落ち込んだ気分の時は、何となく元気をくれそうなあの店に行こうか、あるいは、勉強したいときは静かにさせてくれそうなあの店に行こうかと店を使い分けるときの選択肢にはなりえない。 そして、一旦顧客がマクド離れを起こすと、すべての店舗で同じようにマクド離れが起き、業績の悪化をも引き起こす。 これって何かに似ていないか? 生物多様性を失った農作物が絶滅していく様である。 折り悪しく、山口県で鶏がインフルエンザになったという。 これも同じ種を大量に一箇所で飼うから大規模な被害が出てしまった代表例だろう。 生き物の遺伝子を操作して、画一的な、結果が予想できるものを作る事と、マニュアルで人間を縛り付けることはとても似ている。 環境の変化に対する脆弱性もまた似通っていて、とても怖い。 むしろ最低限のマニュアルを作ってそれ以上は、各スタッフの自由に任せるようにマニュアルを位置づける方が良いのではないだろうか? 生態系の管理の方では、生物がすみやすいようなブロックを利用したり、土手に雑草が生えるようにしたりするなど、そういう試みが多く始まっている。